大人からの将棋上達ブログ

成人後に将棋を本格的に始め、24で六段になった将棋指しの

社団戦2日目に参加してきました

7月31日は社団戦の2日目でした。初日に引き続き参加することができました。この日は隅田川花火大会と重なっていたため、夜の混雑を回避すべく運営を早めるために、持ち時間は普段より短い20分の設定で行われました。秒読みも早めのタイミングで30秒から20秒に切り替わり、全体的にスピーディーな対局が多かった印象です。

今回も前回から引き続き、対局の内容を自戦記として記録しておきたいと思います。前回は自分の対局の全局について書きましたが、時間があまり取れずに検討ができていない対局もあるので、1局だけピックアップして記載したいと思います。

 

前回の記事はこちらです。

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先手ゴキゲン中飛車 対 居飛車ミレニアムの序盤戦

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戦型は相手の方が先手番でゴキゲン中飛車を採用されました。初日でも対戦した戦型です。前回はこの戦型に対し、序盤で大劣勢になってしまったので、作戦負けにならないように対策を考えていた戦型でした。

1図は▽3二金寄としたところで、僕はミレニアムに構えました。先手ゴキゲン中飛車に対してややマイナーな対策に見えますが、永瀬拓矢さんらプロ間でも採用実績のある対策であり、対先手ゴキゲン中飛車の有力な対策だと思います。1図で後手は堅く囲えたので、攻めをどのように繋げていくかがポイントになってきます。

 

序盤は作戦勝ち

図1以下、▲2六歩 ▽2四歩 ▲5九飛 ▽2三銀 ▲4八金 ▽5三角と進んで2図です。

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▽5三角と打つのはこの戦型において頻出の筋です。先手からの▲7一角を防ぐことで、▽3五歩から玉頭戦に持ち込んでいく狙いです。2図からは▽3五歩▲同歩▽同銀▲3六歩▽2六銀と、先手の2六の歩を狙いにしていく攻めがあります。そこまで進むと▽3七銀成~▽2五桂と堅さを武器に強引に攻める手順があるため後手は攻めの継続に困りにくくなります。先手としては避けたい展開です。

2図以下、

▲3八玉 ▽3五歩 ▲5五歩 ▽3六歩 ▲同 銀 ▽5五銀

▲3五歩 ▽3四歩 ▲同 歩 ▽同 銀 ▲4七金 ▽3五歩

▲2七銀 ▽8六歩 ▲同 銀 ▽6四角  と進んで3図です。

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狙い通り▽3五歩と仕掛けた手に対して、相手の方は▲5五歩と突いてきました。上記手順のように自然に対応し、歩得に成功します。3図まで進み、3五の位を取りながら好位置に攻めの角と銀を配置することができました。次の▽4六銀の狙いが厳しく、玉の堅さが生きる展開となったため、ここでは後手がはっきり優勢だと思います。

前回の反省を生かし、序盤戦でリードを取れそうな展開になっていたのですが。。。

 

中盤で失着

序盤戦をうまく乗り切れたのですが、中盤で悪手を指してしまいます。

3図以下、▲4八金▽4四歩と進んで4図です。

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▲4八金は当たりを事前に避けた手で、▽4六銀には▲5四飛と走っていく狙いです。

対して▽4四歩が悪手。攻めに厚みを持たせた一手のつもりだったのですが、▽4四歩を突いたことで▲6一角と打たれてしまいました。

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▲6一角が痛烈で、以下▽4三銀に▲3四歩と打たれ桂損が確定してしまいました。さらに悪手は悪手を呼ぶ展開となり、5図以下▽4三銀▲3四歩▽5二銀と角を取りにいく方針がまたもや疑問。以下▲同角成▽同飛▲3三歩成▽同金▲7五銀で6図です。

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6図は先手が駒得の上、懸念事項だった8六の銀が働く展開となってしまいました。これは角を取りにいったがために、後手の飛車が8筋から外れてしまったため生じた手順です。6図は形勢が互角に近い局面になってしまったと思います。

戻って▲3四歩と打たれたところでは、▽5二銀ではなく▽4六銀と出るべきでした。

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変化1図以下は▲3三歩成▽同金と進んで後手は桂損ですが、飛車が8筋のままであるため先手は▲8六銀を動かしにくい格好です。また6図の局面と比べて、後手玉がしっかりとしているのもポイントです。本譜は自玉が薄くなってしまったため、自玉の守りと敵玉の攻略を両方考えなければならない状況が続きました。

 

終盤の入り口で再度優勢に

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6図から十手弱進んで7図です。いま先手が▲3三銀と打ったところですが、これは疑問でした。7図以下▽同角▲同歩成▽同金と進みますが、後手に銀が入ったため次に▽3六銀が非常に厳しい狙いとなります。7図のような縦の攻め合いにおいては、原則として角の価値は下がります。そのため▽同角と取るのには何の躊躇もないところです。

 

7図以下は優勢となりそのまま終盤へ。しかしここから相手の方の巧みな粘りに手を焼きます。 

 

決め手を逃し逆転模様 

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7図より二十数手進んで8図。局面は後手が勝勢に近い局面です。

今先手が6八にいた角を▲7七角とあがったところです。これは先手玉が5七→6八と逃げれるように退路を作った一手で、次に▲4五金と桂を食いちぎってから左辺へ逃げていく狙いです。

実戦はここで▽3七歩成としました。悪手ではありませんが、ここでは▽3四金という手が決め手でした。

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これは▲4五金に▽同金と取れるようにした一手で、以下▲5七玉に▽7八金と退路を封鎖する手順を狙った寄せです。

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変化3図は次に▽5六金以下の詰めろになっており、これが▽3四金と上がった狙いです。変化3図は先手玉の延命は難しいため、後手が解りやすく勝ちだったようです。

実戦は8図以下、

▽3七歩成 ▲4五金 ▽同 歩 ▲5七玉 ▽5五歩 ▲3四歩

▽同 金 ▲2三銀 ▽3三金 ▲3二銀成 ▽同金引 ▲6八玉 と進んで9図。

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9図まで進み、先手玉に逃走を許してしまいました。9図は先手玉にすぐの寄りがなく、形勢が逆転していると思います。 

 

再逆転も、2度目の決め手を逃す

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9図より十手ほど進んで10図。途中相手の方にミスがあり、ここでは再逆転しています。10図では▽4七角成が決め手でした。

▽4七角成は、次に▽5八馬▲同玉▽5七銀▲同玉▽5六飛以下の詰めろです。対して後手玉は▲3二桂成は▽同玉で、▲4一飛は▽1二玉で詰みません。わかりやすく一手勝ちでした。僕は▽4七角成に▲2八飛とされた時にどうするかが解らず見送りましたが、それには▽5九角▲7九玉▽6八銀以下の即詰みがありました。

実戦は上記手順に踏み込めずに▽3五角▲7七玉▽4四角▲4一飛▽3一金打▲4四飛成▽4三銀と、あえて王手角取りをかけさせて角を取らせながら自陣を堅くする順を選びました。

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実戦ではこの手順でも長く指せば後手が勝っていると思っていましたが、実際にはこの方針は疑問で11図は先手が再々逆転しています。後手は玉が安泰になりましたが攻めの手段に乏しく、ここから長引くにつれて差が広がりそうな局面です。随分前の局面から秒読みは既に30秒から20秒に切り替わっており、ヨレヨレの終盤を露呈してしまいました。

 

粘りに粘って三度逆転

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11図から三十手近く進んで12図。いま先手の▲2四桂に▽3四金と打ったところです。▽3四金は対局後に行われたチーム内の反省会で非常に評判が良く、以下▲3二桂成▽同玉となって後手玉が一気に安定しました。

12図以下、

▲3二桂成 ▽同 玉 ▲2四歩 ▽4六桂 ▲2三金 ▽4二玉 と進んで13図。

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ここで相手の方は▲7八飛と指しましたが、これが悪手で三度後手が逆転します。▲7八飛では代えて▲5九飛が勝りました。

13図以下、

▲7八飛 ▽5七歩成 ▲7一角 ▽5六角  で14図。

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14図の▽5六角が痛烈で、完全に後手勝勢となりました。

ただここから簡単に勝ち切れないのが人間同士の秒読み将棋の面白いところ。以下▲6九龍と指されて思考がフリーズしてしまいました。

今見ると▽5八銀と足して攻めれば何の問題も無く勝ちなのですが、実戦は▽8五歩▲8六歩▽4七角成以下、決め手を欠く攻めを続けてしまい先手玉を寄せきれません。秒読み20秒のまま60手以上指し続けており脳の体力が限界に。。。以下は棋譜を正確に再現できませんが、悪手を連発しているうちに形勢が逆転します。

 

死闘の末

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14図から一気に五十手近く進んで15図。途中の手順を正確に再現できず申し訳ないですが、15図の局面は合っていると思います。14図から色々あってこの局面になりました。後手が次々と悪手を連発し、気が付けば先手が勝勢になっています。

後手が指すとしたら▽5二玉ですが、▲5四歩▽同金▲4三歩のように着実に攻めていけば紛れることはないと思います。実戦は15図の▲2四馬にて投了し、200手超えの死闘が終わりました。

 

2日目の所感

僕はアマチュア棋界には疎いため知らなかったのですが、相手の方はアマ超強豪の有名人だったそうです。負けはしましたが、そんな方とこれだけ熱い将棋が指せたのはとても光栄です。振り返ると僕の指し手の内容は酷いものでしたが、終盤の長い将棋は指していてとても楽しいです。

これだけ何度も形勢がひっくり返る将棋も珍しいですが、ある意味これが人間同士の将棋の醍醐味なのかなと思います。対局後は健闘を称え合いお互いに笑顔でした。こういうシーンは本当に良いなと、改めて人間同士の将棋の魅力を実感できた1局でした。

 

この日は3局出させていただき個人成績は1勝2敗で、通算成績は3勝3敗となりました。次回の社団戦は8月26日(日)です。無料で自由に出入りが可能なので、もしよければ足を運んでみてはいかがでしょうか。

東京アマチュア将棋連盟

http://toushouren.world.coocan.jp/shadan/29/29_shadan02.pdf

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

【ご報告】毎朝の次の一手問題について

毎朝投稿している次の一手問題についてですが、

唐突ではありますが、本日にて一時中断いたします。

中断に至った経緯は以下の通りです。

 

環境の変化

詳細は控えさせていただきますが、来月からリアルの環境がガラっと変わります。これに伴い、毎朝定期的に執筆する時間を確保するのが難しくなりました。

環境が変わるのは来月からですが、新しい生活に慣れる準備をしておきたいと思い、明日から中断しようとの考えに至りました。

 

今後のブログについて

毎朝の次の一手問題は一時中断しますが、執筆は変わらず続けます。今後は不定期での投稿にはなりますが、次の一手問題も無理のない範囲で続けていこうと考えています。

 

【次の一手|プロの実戦】問題130-三間飛車の中盤戦

プロ棋士の実戦棋譜から、これは凄い!と感じた一手や、覚えておくと棋力向上に繋がりそうな手筋などを、「次の一手」の問題形式で紹介します。

今回は以下の棋戦からの紹介です。

▲永瀬拓矢六段 △福崎文吾九段 第75期順位戦C級1組11回戦 より

                              

【問題図:▽3一飛 まで】

先手の▲1二角成に、いま後手が▽3一飛としたところです。と金に当たっていますが、先手はここでどう指しますか。

 (正解は下にスクロールするとあります)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                              

正解は▲4四歩です

【正解図:▲4四歩 まで】

▲2二馬や▲3二歩でも先手が優勢を保てる局面でしょうが、その上を行く好手がありました。それが正解手の▲4四歩です。これは▽3三飛としてと金を取れば、▲3四香と打って飛車を取る狙いです。(参考図1)

【参考図1:▲3四香 まで】

また正解図からと金を取られなければ、次に▲4三歩成としてと金攻めを狙います。実戦も正解図からと金を取らず▽4九飛と打ちましたが、▲4三歩成と二枚目のと金を作ります。(図1)

【図1:▲4三歩成 まで】

問題図から▲2二馬や▲3二歩でと金を守るよりも、はるかに効率の良いと金の守り方です。図1以下は、と金を寄せていく狙いを間に合わすことだけ考えれば良いという、非常にわかりやすい局面にすることができました。

反射的に▲2二馬や▲3二歩としてしまいそうなところ、この▲4四歩が一目で見えた方は相当強いと思います。

 

いかがでしたでしょうか?問題の感想などございましたら、コメントをいただければ幸いです。

もしよければ、以下の問題にもチャレンジしてみてください!

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【次の一手|プロの実戦】問題129-雁木の終盤戦

プロ棋士の実戦棋譜から、これは凄い!と感じた一手や、覚えておくと棋力向上に繋がりそうな手筋などを、「次の一手」の問題形式で紹介します。

今回は以下の棋戦からの紹介です。

佐藤紳哉七段 △大石直嗣七段 第4期叡王戦段位別予選七段戦 より

                            

【問題図:▲8四同銀 まで】

いま先手が▲8四同銀として飛車を取ったところです。ここで後手は先手玉を受け無しに追い込む手順がありました。五手一組の問題です。

 (正解は下にスクロールするとあります)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                            

正解は▽7七角▲7九玉▽8八銀▲7八玉▽6六角成です

【正解図:▽6六角成 まで】

初手の▽7七角の王手はこの一手で、先手玉を危険地帯に呼び寄せます。最後の▽6六角成が邪魔駒を除去する手筋で、自身の角を消すことで▽7七桂成とするスペースを作っています。

正解図は7七の地点に後手の駒が既に三枚効いているのに対して、先手は▲7八玉の一枚しか効いていません。そのため、正解図から▲6六歩と馬を取っても数の攻めを防ぐことはできません。つまり正解図は受けが効かない局面です。最終手の▽6六角成は▽5五角成でも問題はありません。

 

いかがでしたでしょうか?問題の感想などございましたら、コメントをいただければ幸いです。

もしよければ、以下の問題にもチャレンジしてみてください!

 

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【次の一手|プロの実戦】問題128-角換わりの中盤戦

プロ棋士の実戦棋譜から、これは凄い!と感じた一手や、覚えておくと棋力向上に繋がりそうな手筋などを、「次の一手」の問題形式で紹介します。

今回は以下の棋戦からの紹介です。

▲増田康宏六段 △佐藤康光九段 第31期竜王戦決勝トーナメント より

                              

【問題図:▽5一角 まで】

いま後手が7三にいた角を▽5一角と引いたところです。ここで先手はどう指しますか。

 (正解は下にスクロールするとあります)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                              

正解は▲4五桂です

【正解図:▲4五桂 まで】

▲4五桂が正解です。これは直前に後手が指した▽5一角を咎める一手で、角が移動したことによって開いた飛車の小びんを狙う攻めです。正解図から▽4五同歩なら▲5五角と打つ手を狙いにしています。

また▽4五同歩ではなく▽6二銀と引く手に対しても▲5五角と打ち、以下▽7三桂に▲4四角▽3三桂▲5四銀と進んだ局面は、先手の攻め駒が全軍躍動で相当優勢な局面になります。(参考図1)

【参考図1:▲5四銀 まで】

実戦は正解図以下▽4五同歩▲5五角と進みました。(図1)

【図1:▲5五角 まで】

図1以下▽3三角▲8二角成▽4六歩で一瞬先手が駒損にはなるものの、後手は飛車に弱い陣形であるため、飛車を手持ちにした先手が優勢の局面です。

 

いかがでしたでしょうか?問題の感想などございましたら、コメントをいただければ幸いです。

もしよければ、以下の問題にもチャレンジしてみてください!

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【次の一手|プロの実戦】問題127-三間飛車の終盤戦

プロ棋士の実戦棋譜から、これは凄い!と感じた一手や、覚えておくと棋力向上に繋がりそうな手筋などを、「次の一手」の問題形式で紹介します。

今回は以下の棋戦からの紹介です。

▲南 芳一九段 △千田翔太六段 第31期竜王戦5組昇級者決定戦 より

                              

【問題図:▲3八金 まで】

いま先手が▲3八金としたところです。ここで後手に鋭い寄せの手順がありました。三手一組の手順です。

 (正解は下にスクロールするとあります)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                              

正解は▽3七桂成▲同桂▽1六飛です

【正解図:▽1六飛 まで】

▽3七桂成と成り捨ててから▽1六飛と香車を取る手が正解です。

正解図以下▲同玉に対して、▽3七桂成で入手した一歩を使って▽1五歩と打つ手が一歩千金の一手です。(図1)

【図1:▽1五歩 まで】

図1以下▲1七玉は▽1六香で詰みますし、▲2五玉は▽3五金▲1五玉▽2四銀▲同玉▽3三角で綺麗に詰みます。(参考図1)

【参考図1:▽3三角 まで】

実戦でも上記手順中の▽3五金まで進み、先手の投了となりました。

 

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もしよければ、以下の問題にもチャレンジしてみてください!

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次の一手問題で上達する技術

将棋には様々な上達方法があります。次の一手問題も上達方法の1つですが、個人的には「詰将棋」「棋譜並べ」「実戦対局」などに比べてややマイナーというか、主要な勉強法にはなっていない印象があります。次の一手問題を解くことはとても効果がある勉強法だと思っているので、今回記事にしてみようと思いました。

 

次の一手問題については、過去の記事でその魅力について書いたことがあります。

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こちらの記事では、次の一手問題が手軽にはじめることができ、また挫折しにくい勉強法であることを自らの経験から記載しています。ただ、具体的にどのような技術の上達に役立つかを記載していませんでした。

そこで今回は次の一手問題を解くことで、棋力向上にどのような効果があるのかについて考察をした内容を記載しています。よければ参考にしてみてください。

 

1.局面やテーマごとの様々な手筋を覚えられる

次の一手の問題に主に取り上げられるのは、様々なテーマに沿った手筋です。代表的なものとしては必死問題があり、必死のかけ方や必死の凌ぎ方など特定のテーマでまとめられたものが有名です。次の一手問題を解くことで、これらの"手筋"と呼ばれる技術を身に着けることができます。

■テーマごとの手筋をまとめた次の一手問題例

 

2.状況判断、意思決定の練習ができる

詰将棋や先述した必死問題などは、事前に指し手の目的が決まっています。例えば詰将棋であれば"詰ます"という目的が決まっており、当たり前ですが詰む前提で問題が作られています。ただし実戦対局では、その前に"どのような目的の手を指せばよいか"という意思決定をする必要があります。

これは終盤における思考プロセスにスポットを当てるとわかりやすいでしょう。まずは以下の図1を見てみてください。

【図1:終盤戦における読みの組み立て フローチャート】

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これは終盤力養成書として定評のある、金子タカシさんの棋書"凌ぎの手筋200"から抜粋した”終盤の読みの組み立て”について、フローチャートに図式化したものです。

「読みの開始」からスタートして、上から順番に条件判断をしていきます。途中の条件に当てはまるかどうかで進むルートを決めていき、辿り着いた青い四角の部分が終盤における正しい意思決定内容です。この図の通りに正しく状況判断を進めていき、青い四角に記載された内容通りの指し手を実現できれば、終盤で勝てるようになります。

詰将棋であれば「敵玉に詰みがあることが前提」になっています。つまり図1であれば「2.敵玉に詰みがあるか?」の質問にYesと判断された後の話です。必死問題であれば「敵玉に必死がかかることが前提」に問題が構成されています。

このように詰将棋や必死問題では「敵玉に詰みがあるか?」「敵玉に必死がかかるか?」という条件判断は既に終わっています。しかし実戦ではこれらの技術を活用する前に、条件判断をして終盤で何をすべきか意思決定をする、つまりは「フローチャートを辿る技術」が求められてきます。

その練習に役立つのが「指し手の目的が明示されていない次の一手問題」です。以下は当ブログで毎回紹介させていただいている2冊ですが、「序盤・中盤・終盤」と局面ごとにスポットを当てているものの、指し手の目的は事前に明確にされていません。このような次の一手問題であれば、図1のフローチャートを辿る練習をすることができます。

 ■指し手の目的が明示されていない次の一手問題例

例えば「終盤の手筋」 の場合、敵玉を詰ます問題、敵玉に必死をかける問題、自玉の詰みを凌ぐ問題、攻防手を考える問題など、様々な問題がランダムに出題されています。そのため、図1のフローチャートを正しく辿ることができなければ、正しい目的の一手に辿り着くことは出来ないでしょう。

ただし上記の書籍含め、大抵の次の一手問題には、次の一手の目的が記載された「ヒント」が載っています。

そこで個人的に効果があると考えている勉強方法としては、1週目はヒントを見ながら手筋を覚え、2週目はヒントを隠して状況判断と意思決定をするところから考える練習をすれば良いのではないかと思います。

 

まとめると、次の一手問題では以下2点の技術が取得できると考えています。

  1. 様々な手筋の取得
  2. 正しい状況判断能力・意思決定能力の取得

特に2点目の正しい状況判断能力と意思決定能力の取得は、実戦対局以外ではなかなか身に付きにくい技術だと思いますので、次の一手問題を勉強方法に取り入れる価値は大いにあるのではないでしょうか。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

【次の一手|プロの実戦】問題126-向かい飛車の終盤戦

プロ棋士の実戦棋譜から、これは凄い!と感じた一手や、覚えておくと棋力向上に繋がりそうな手筋などを、「次の一手」の問題形式で紹介します。

今回は以下の棋戦からの紹介です。

▲佐藤康光九段 △塚田泰明九段 第68回NHK杯テレビ将棋トーナメント より

                        

【問題図:▽5四同歩 まで】

いま後手が▽5四同歩としたところです。局面は先手優勢ですが、ここから後手玉をどう寄せるか考えてみてください。

 (正解は下にスクロールするとあります)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        

正解は▲1六香です

【正解図:▲1六香 まで】

▲1六香と走る手が正解です。▽同銀と取らせることで2四に香を打てるスペースを作るのが狙いです。正解図以下、▽1六同銀に▲2四香と打った手が左右挟撃の厳しい攻めになっています。(図1)

【図1:▲2四香 まで】

左右挟撃の攻めは、片側から攻めるよりも少ない数の駒で相手玉を寄せることができます。図1も先手の攻め駒がそれほど多くないのにも関わらず、後手の受けが難しいことがわかります。

図1以下▽3一玉▲5二馬と進み、見事に挟撃体制を築きます。(図2)

【図2:▲5二馬 まで】

図2から飛車を逃げるのは▲1三歩成が詰めろとなって一手一手です。先手玉には詰めろがかからないため、図2の局面は先手が勝勢です。

 

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【次の一手|プロの実戦】問題125-雁木の終盤戦

プロ棋士の実戦棋譜から、これは凄い!と感じた一手や、覚えておくと棋力向上に繋がりそうな手筋などを、「次の一手」の問題形式で紹介します。

今回は以下の棋戦からの紹介です。

▲永瀬拓矢七段 △渡辺 明棋王 第66期王座戦挑戦者決定トーナメント より

                                  

【問題図:▲6八同玉 まで】

いま後手の▽6八歩に対して▲同玉と取ったところです。後手は先手玉をどのように寄せますか。

 (正解は下にスクロールするとあります)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                  

正解は▽8六角です

【正解図:▽8六角 まで】

▽8六角と角を捨てる手が正解です。

正解図以下、▲同金▽7七角▲6九玉▽5七桂不成▲7八玉▽8六角成と進みます。(図1)

【図1:▽8六角成 まで】

途中の▽5七桂不成が重要な一手で、先手玉を7八の危険地帯に呼び寄せる一手です。代えて単に▽8六角成では▲6八金打と粘る手があります。(参考図1)

【参考図1:▲6八金打 まで】

これでも後手がはっきり優勢ではありますが、図1の局面と比較するとまだ先手玉に粘る余地がありそうです。そのため、▽5七桂不成▲7八玉としてから▽8六角成とするのが好手順です。

図1の局面は先手玉は受け無しです。実戦は図1以下▲7七歩と受けますが、▽同馬が決め手です。(図2)

【図2:▽7七同馬 まで】

図2以下、▲同玉▽6五桂▲6八玉▽8八飛成▲7八金▽6九金▲同飛▽同桂成▲同玉▽3九飛と進みます。(図3)

【図3:▽3九飛 まで】

図3以下は5九に何を合い駒しても▽7九金以下の詰みです。5八の金を引く移動合も、▽7八龍▲同銀▽5九飛成▲同玉▽5八金以下ぴったりの詰みです。

 

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【次の一手|プロの実戦】問題124-中飛車の序盤戦

プロ棋士の実戦棋譜から、これは凄い!と感じた一手や、覚えておくと棋力向上に繋がりそうな手筋などを、「次の一手」の問題形式で紹介します。

今回は以下の棋戦からの紹介です。

▲菅井竜也王位 △豊島将之八段 第59期王位戦七番勝負 第1局 より

                              

【問題図:▽8四飛 まで】

先手の▲7五歩に対し、いま後手が▽8四飛と浮いて受けたところです。ここから先手に機敏な攻め筋がありました。三手先まで読む問題です。

 (正解は下にスクロールするとあります)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                              

正解は▲7四歩▽同飛▲7五銀です

【正解図:▲7五銀 まで】

▲7五銀と銀を捨てる手がありました。正解図以下▽同銀は▲5三歩成、▽同飛は角交換から▲6六角とする狙いです。

実戦は正解図以下、▽同飛▲2二角成▽同玉▲5三歩成▽同金▲6六角と進みます。(図1)

【図1:▲6六角 まで】

後手は銀得を主張すべく、あえて王手飛車をかけさせる順を選択しました。

図1以下、▽5五歩▲7五角▽同銀▲7一飛▽3二銀▲4二歩▽3一金▲5五飛と進みます。(図2)

【図2:▲5五飛 まで】

図2まで進み、先手は金銀銀の三枚取りをかけて駒損を回復することに成功しました。

図2以下▽6四銀▲4五飛と進んだ局面は、駒の損得なく先手が飛車を2枚持つ展開です。▲7五銀から先手が序中盤で優位を築くことに成功しました。

 

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【次の一手|プロの実戦】問題123-三間飛車の中盤戦

プロ棋士の実戦棋譜から、これは凄い!と感じた一手や、覚えておくと棋力向上に繋がりそうな手筋などを、「次の一手」の問題形式で紹介します。

今回は以下の棋戦からの紹介です。

▲杉本昌隆七段 △高崎一生六段 第77期順位戦 C級1組 より

                        

【問題図:▽6四角 まで】

いま後手が▽6四角としたところです。ここで先手はどのように指しますか。

 (正解は下にスクロールするとあります)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        

正解は▲5七角です

【正解図:▲5七角 まで】

▲5七角と上がる手が正解です。これは次に▲7五歩と突いて銀を取る手を狙っています。問題図ではまだ後手玉が囲いに入っていないため、先手は早めの戦いに持ち込むことができれば優勢になる可能性が高まります。

正解図以下、▽9五歩▲7五歩▽3四歩▲2五飛▽2四歩▲同角▽同金▲同飛と進行します(図1)

【図1:▲2四同飛 まで】

後手はあっさり駒損するわけにはいかないので、▲7五歩に対して▽3四歩~▽2四歩と飛車を追いかけます。対して先手はあっさり▲2四同角として、駒損ながら飛車を捌いていきます。

先手は飛車を敵陣に成り込める形にすることができ、狙い通り早い戦いにすることができました。図1は後手の手番ですが、▲7五歩の対処をしなければならないため、実質手番は先手にある局面です。以上の理由から、図1は先手が駒損ながら十分戦える局面ではないかと思います。

 

いかがでしたでしょうか?問題の感想などございましたら、コメントをいただければ幸いです。

もしよければ、以下の問題にもチャレンジしてみてください!

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【次の一手|プロの実戦】問題122-三間飛車の中盤戦

プロ棋士の実戦棋譜から、これは凄い!と感じた一手や、覚えておくと棋力向上に繋がりそうな手筋などを、「次の一手」の問題形式で紹介します。

今回は以下の棋戦からの紹介です。

▲三枚堂達也六段 △杉本和陽四段 第90期ヒューリック杯棋聖戦一次予選 より

                                    

【問題図:▽7四香 まで】

いま後手が▽7四香と打ったところです。次の狙いは当然▽7七香成ですが、先手はこれをどう受けますか。

 (正解は下にスクロールするとあります)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                    

正解は▲6六銀です

【正解図:▲6六銀 まで】

▲6六銀と受けるのが正解です。代えて▲7六歩と受けるのが自然に見えますが、以下▽8四桂▲6八桂▽5七銀が進行の一例です。(参考図1)

【参考図1:▽5七銀 まで】 

この変化も先手悪くはありませんが、▲5五銀の働きが気になるところです。参考図1の最終手▽5七銀と打った局面は、後手にも楽しみのある局面だと思います。

 

正解手の▲6六銀以下▽7七香成とするのは、▲同銀と取った形が先手陣に全く嫌味がありません。

実戦は正解図以下、▽6五歩▲7五歩▽6六歩▲7四歩と進みます。(図1)

【図1:▲7四歩 まで】

一連のやり取りで香銀交換の駒損にはなったものの、先手の堅陣は健在です。次に▲7五桂など上部からの攻めが楽しみで、入手した香も生きる展開となりそうです。

この一連の手順によって、問題図で働きが曖昧だった5五の銀を捌き、攻め駒を増やすことができました。図1の局面は先手に一枚もたりとも遊びゴマが無く、中盤を完全に制した局面と言えると思います。

 

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