大人からの将棋上達ブログ

成人後に将棋を本格的に始め、24で六段になった将棋指しの

アイ・メッセージ 将棋上達のコミュニケーションモデル

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将棋の対局中に、対局者どうしが言葉でコミュニケーションをすることは、対局前後の定められたものを除き、基本的にはありません。

ですが、対局後の検討や将棋の指導、研究など様々なシーンにおいて、言葉によるコミュニケーションが発生するのが将棋というゲームです。

コミュニケーションをどのようにするか、特に、強い人が指導する立場に立った時、どのような言葉でコミュニケーションするかは、指導を受ける人の将棋の上達において重要なことだと考えています。

 

今回は将棋指しのコミュニケーションのあり方について、考えてみました。

 

【目次:アイ・メッセージ 将棋上達のコミュニケーションモデル】

 


1.アイ・メッセージ と ユー・メッセージ

早速ですが、以下2種類の例文をみてください。(対局後の感想戦でのやり取り)

① なぜそう指したのかな。ここはこう指すべきでしょ?

② ここでこういう手が指せるようになると、良いと思うよ。

 もう1つ、例を出します。

① 今回の反省を生かして、ちゃんと序盤の勉強しなきゃダメだよ。

② 今回の反省を生かして、序盤の勉強をすると良いと思うよ。

①の文は「あなた」が主語のメッセージです。このようなメッセージは「ユー・メッセージ」と呼ばれています。悪手を指した相手「あなた」を主語にしてメッセージが組み立てられているのがわかります。

ユー・メッセージの特徴として、「指示的」「命令的」になりやすいところがあります。上から目線で、どこか高圧的な印象を受けるのではないでしょうか。

 

②の文は「わたし」が主語のメッセージです。このようなメッセージは「アイ・メッセージ」と呼ばれています。①とは違って、伝えているのはあくまで「わたし」の考えや気持ちだけで、相手に指示もしていなければ命令もしていません。

アイ・メッセージの特徴は、あくまでメッセージを伝えるに留まっており、それに対して相手がどう感じ、どう行動するかは自由だということです。相手の自由を尊重したコミュニケーションモデルだと言えます。

 

将棋を教える時、この相手の自由を尊重するという視点は忘れてはならないものです。将棋は多様性が魅力のゲームです。どの戦型を指すか、どんな棋風で指すかといった将棋の内容はもちろんですが、「どうやって上達していくか」という上達のプロセスもプレイヤーに選ぶ権利があります。それを意図せず侵略してしまう行為が「ユー・メッセージ」によるコミュニケーションではないかと考えています。 

 


2.指示的な言葉は将棋をやめさせる原因にもなる

人は相手に何かを伝える場合、「あなた」を主語にしたメッセージを使ってしまいがちです。ですが、このコミュニケーションモデルが一般化すると、多くの人の上達の機会を阻むことになるのではないかと考えています。

 

将棋には段位という階級があることもあり、強さの序列がはっきりとしやすいゲームです。指示的なメッセージを使うと、将棋では強い人の言うことには従わなければならない、という空気感が生まれます。そのような環境においては、格上の相手に対して自分の考えを何も主張することができなくなってしまいます。

将棋において、自分の思考プロセスをアウトプットすることは欠かせない上達法です。指示的・命令的なコミュニケーションはその上達法を奪ってしまうことになりかねません。

 

また真面目な性格な人の場合、「強い人の指示通りにやっているのに強くなれないのは、自分に才能が無いからだ」と捉え、最悪の場合は将棋が楽しくなくなって、辞めてしまう原因にもなり得ます。僕も「ユー・メッセージ」による指導を受けた時、辞めはしませんでしたが勉強が停滞してしまった時期が何度もあります。

僕は大学の将棋部に入部時、それまでほぼ将棋の勉強をしたことが無かったため、基礎が全く出来ていませんでした。そのため改善すべきところがたくさんあり、たくさんの方から様々な指摘を受けてきましたが、やはり「アイ・メッセージ」で伝えられたほうが良い行動に繋がったのを覚えています。

 


3.言葉はその人の人格を作る

アイ・メッセージを使うことは、指導する側にも良い影響があると思います。言葉は人格を作るとは、よく言われることです。

これは科学的にも証明されていることで、相手に向けて発した言葉は、自分の耳にフィードバックして入っていきます。このフィードバックを受けて、脳が「自分はこういう風に考えているんだな」と認識します。

 「ユー・メッセージ」を使っていると、その人が自分より強い相手と対局した時、今度は自分が検討で何も主張できなくなってしまいます。普段から発している自分自身のメッセージが、自らの成長の機会を奪っているのではないでしょうか。

 

これまでに何度か超強豪と呼ばれる人達から教わったことがありますが、検討では「わたし」というニュアンスの言葉を含んでいらっしゃる方が多いです。本当に強い方は、指導をしていく中でも良質な人格を形成していき、強くなっていっているのではないかと感じます。

 


4.アイ・メッセージによるコミュニケーションのススメ

これまで述べてきたように、将棋指しの人達には「わたし」を主語にした「アイ・メッセージ」を使ってほしいなと思っています。

 

「アイ・メッセージ」は、心理学やコーチングの書籍を眺めていると見かけるコミュニケーションのモデルです。最近、本業では部下を持つ立場になり、部下とのコミュニケーションについて考える機会が増えたことも、このようなコミュニケーションのモデルについて知ったきっかけです。

 

将棋においても、このようなコミュニケーションのモデルを知っておくことは、指導する時はもちろん、自分自身の将棋の上達にも良い影響があると考えています。

ある程度まとまりのあるコミュニティ(将棋サークル・将棋部など)で全体のレベルアップを考える時、最も見直すべき観点はコミュニケーション・モデルかもしれません。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。