大人からの将棋上達ブログ

成人後に将棋を本格的に始め、24で六段になった将棋指しの

【次の一手】候補手の出し方から決断までのプロセス

次の一手問題を通して、候補手の出し方など、読みのプロセスを紹介。

思考プロセスを言語化したため、やや文章量が多め。

                                                    

 【問題図:▽7四玉 まで】

問題図は▲7ニ銀の王手に対して、後手が▽7四玉と上がったところ。▽7四玉は角の前に玉が出た手だけど、これは過去のブログ記事でもしばしば述べている「玉頭戦においては角の価値が下がる」の好例かも。いつでも角を取る手を狙ってる。

さて、問題図は見ての通り終盤戦。序盤~中盤と違って終盤戦は一手一手が非常に重いから、方針がまとまっていないとすぐに負けちゃう。  

 

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状況整理

そもそも状況整理ってどういうこと?

よく言われるのが、形勢判断の指標となる4要素について、双方を比較して分析をすること。ちなみに4要素とは、

  1.  手番
  2.  玉の堅さ
  3.  駒効率
  4.  駒の損得

の4要素。ちなみに終盤戦では、「原則」1~4の順番で価値が高いというのが僕の理解だ。ちなみに序盤は評価が逆転して、4~1の順番になる理解をしてる。2と3は人によって意見が分かれるかも?

さて、状況整理をするのは大切。でも上の4要素を基準に、いきなり指し手を決断するのはちょっと難しいと思ってる。以下ざっくりとしたイメージだけど、

  •  手番を握っているから、次はAAAを指すべき!
  •  玉の堅さで上回っているから、次はBBBを指すべき!
  •  駒の効率で劣っているから、次はCCCを指すべき!
  •  駒損しているから、次はDDDを指すべき!

正直、どれも抽象的で論理が飛躍してる。正解手である根拠が弱い。だから僕は論理の飛躍を抑えるために、後もう1層掘り下げて分析するようにしてる。

具体的にどうするかっていうと、局面における「課題」を明確にする。課題を明確にする方法の1つは、「ここでパスしたらどうなるか」を考えること。問題図では先手の手番だけど、ここで後手の手番だったら?と仮定して読みを入れてみる。

問題図で実際にやってみよう。そうすると、▽7七金▲同桂(▲同歩は▽8八金以下即詰み)▽7五玉と進んで、先手が受け無しになることが解る。(参考図1)

【参考図1:▽7五玉 まで】

参考図1では、既に7六の地点には後手のほうが効きの数が多いから受けが無い。こうなってはまずい。参考図までの手順のうち、▽7七金が後手の影となっていた▽5八馬を働かせる好手で、最後▽7五玉までの手順を演出していることが読み取れる。

以上のことから、後手の「▽7七金」「▽7五玉」の2つの手段に対処することが、問題図における課題であることが認識できた。

 

候補手出し

課題を認識できると、指し手の候補手をグっと絞ることができる。

 【問題図(再):▽7四玉 まで】

問題図における課題を再度以下に整理。()内には課題をより正確に記載。

  1.  ▽7七金を防ぐ(▽7七金と、金を取られながら馬筋が通るのを防ぐ)
  2.  ▽7五玉を防ぐ(▽7五玉と、角を取られながら先手玉に詰めろをかけられるのを防ぐ)

1の▽7七金で金を取られるのを防ぐ手段としては、自分の7七にいる金をズラす他にない。具体的に▲7六金という手が候補手になる。▲7六金は課題2.の▽7五玉も防いでおり、かなりの有力手。では▲7六金で良いのか?っていうとまだ早い。課題をクリアできても、掘り下げるとまた別の課題が潜伏していたりすることだってある。

つまりは検証が必要。検証って簡単に言えば読みを入れてくことだけど、後手の予想手はをやみくもに読んでいけばいいのか?っていうと違う。これもやり方は同じで、今度は後手の視点に立って「パスによる分析」をしてみれば良い。

【参考図2:▲7六金 まで】

参考図2の局面で、仮に先手の手番だった場合(後手がパスした場合)どう指すか?を読んでみる。ここでは後手玉に即詰みがあり、▲8五金▽同玉▲8一龍▽7五玉▲8六龍以下の手順で詰む。つまり後手の課題は▲8五金以下の詰み筋を防ぐこと。その課題を解決する具体的な手として▽7八金が考えられる。(参考図3)

【参考図3:▽7八金 まで】

▽7八金は5八の馬筋を通した意味がある。▲8五金に▽同馬と取れるようにしたことで、先述の即詰み手順を防ぐっていう課題をクリアしてる。しかも、次に▽8八金▲9六玉▽6九馬以下の詰めろにもなってる。先手が詰めろを防いで▲7八同玉と金を取る手には、▽7六馬と金を取る手が手厚く、簡単な形勢ではない。

 

候補手の洗い直し

 【問題図(再):▽7四玉 まで】

問題図における課題を再度整理。()内には課題をより正確に記載。

  1.  ▽7七金を防ぐ(▽7七金で、金を取られながら馬筋が通るのを防ぐ)
  2.  ▽7五玉を防ぐ(▽7五玉と、角を取られながら先手玉に詰めろをかけられるのを防ぐ)

▲7六金には▽7八金で難解だった。こうなると候補手の洗い直し。次は▲7六金以外の候補手を考えてみたい。だけど、ほとんどの人が上記2点の課題をクリアする手で、▲7六金以外の有力手に辿りつけないと思う。

候補手が思い浮かばないことって実戦でよくある。でも有力な候補手を出しやすくするコツはたくさんある。例えば、汎用的な概念や手筋を活用するって方法。例えば先述の形勢評価の4指標とかも、候補手出しに活用できる。今回はこれを軸に候補手を出してみよう。

 

【(終盤における)形勢評価の4指標】

 手番 >> 玉の堅さ >> 駒効率 >> 駒の損得

 

形勢評価の4指標で候補手出しに使いやすいのは「手番」と「駒の損得」。終盤においては、手番を握ることは形勢に与える影響が大きく、駒の損得は形勢に与える影響が少ない(他の形勢指標よりは)

これを認識できていれば、終盤に駒をタダ捨てするような手を候補手として出しやすくなる。

 

 【問題図(再):▽7四玉 まで】

                                                    

▲8六桂▽同歩▲同金という手順が、先述した2点の課題をクリアする手順。(▲8六桂に▽同歩に代えて▽7五玉と角を取るのは、▲7六金▽8四玉▲8一龍以下の即詰み)

ちなみに、この▲8六桂▽同歩▲同金という手順が当問題の正解である。

【正解図:▲8六同金 まで】

問題図を確認する

問題図と正解図の局面を比較すると、狙われていた7七の金を、8六に移動した格好になってる。6七の金から逃げつつ、7五の角に紐をつけることができた。

しかも、次に▲8五金▽同玉▲8一龍以下の手順で詰めろになってる。当然▽8五歩と受けても▲同金以下詰まされる。後手はこの詰み手順を受けにくく、正解図は先手が勝勢だ。

ここで正解手順の▲8六桂について、候補手出しの指標とした「手番」「駒の損得」という2つの観点に注目してみる。

  • 手番の終盤における価値は高い。王手は手番をキープできる。
  • 駒の損得の終盤における価値は低い。▲8六桂は駒損する手である。

つまり、終盤における形勢評価指標のうち、最も価値が高い「手番」と、最も価値が低い「駒の損得」に忠実に従って、駒損はするが手番を渡さない手順を実現したってことになる。

 

手が見える ≒ 辿り着く

よく「手が見える」とか「手が見えない」って聞くけど、突然ふわって手が浮かんでるんじゃなくて、記事に書いてるような思考プロセスを、対局者の脳内で超高速に処理されてるんだと思ってる。

また、すべてのプロセスを丁寧に踏む必要はなく、対局者の経験から直観でスキップできるプロセスも多々あると思ってる。子供の頃から将棋やってる人とかは、何万局、何十万局とやってるうちに、経験として体に染みついている感覚なのかなって思う。

 

「手が見える」→「早く辿り着く」ことなのかなと。

辿り着く技術を磨くにはたくさんの引き出しが必要だと思ってる。終盤だったら詰みとか必死の手筋とか、序盤だったら定跡とか実戦例とか。そんでもって、当記事で取り上げた形勢評価の指標みたく、一般的な概念とか。

もちろん、これらの引き出しを揃えても、いつも答えに辿りつけるほど将棋は単純じゃない。けど道標にはなってくれる。僕は今でも変わらず、読みのプロセスを頭の中で言語化しながら、候補手に辿り着いてる。

 

以下を合わせて読むと参考になるかも。

syogiblog.hatenadiary.jp