大人からの将棋上達ブログ

成人後に将棋を本格的に始め、24で六段になった将棋指しの

候補手を考え方から導出できるように

将棋について記事にしたいことはあったけど、なかなか記事にするタイミングが無かった。盆休みに時間を作れたこともあり久々に書けた。

さて、今回は「候補主を導出するには」ってテーマで書いてみる。以前も「候補手出しから決断まで」ってテーマで記事を書いたけど、今回は、より「候補手出し」に絞ったテーマで書いてみる。

 

この手があるから、こう進むから、で導出できるようになる?

将棋の指導を誰かに受ける時、自分の着手について色々と指摘をされると思う。ここがまずかった、こうすべきだった、とかとか。

その時、指導する側の頻出文句が「この手があるからダメ」「こう進むからこっちのほうが」っていうワード。つまりは進行手順や変化手順だけ示す説明の仕方。

実際の進行手順を示されると、その場はとても納得したように感じる。自分が読めなかった手順を的確に示されてるわけだし、聞く側は凄いな~と思うことが多い。

この方法が効果的なのは、正解手を指せなかったけど候補手には入っていたケース。この場合、決断できなかったのは読みの精度の問題なので解決できる。

 

問題なのは、「正解手がそもそも候補手に無かったケース」。将棋指しの頻出ワード「見えなかった」ってやつですね。この場合、伝えるべきは「なぜ候補手にあげられなかったのか」であり、具体的な進行手順はその後の話。

読めなければ候補手にあがらないんじゃない?って思うかもだけど、候補手出しってそもそも読む前段階の話で、「この手はどうかな?」って思えるかどうか。

 

つらつらと言葉だけ並べても謎なので、実例を取り上げて考えてみる。

 

【参考図①:▽9三同桂 まで】

http://shogipic.jp/v/MVv.png

上図は居飛車ミレニアム 対 振り飛車穴熊の対抗型で、▲9三桂成▽同桂と進んだ局面。手番は先手。次の一手を考えてみる。

 

先に言ってしまうけど、正解手は▲7一角成

そんでもって▲7一角成を指摘する時に、手順だけ示す人はこんな感じだと思う。

ここでは▲7一角成で先手優勢でした。▲7一角成▽同金は▲4三飛成が飛車と銀の両取りだし、▽同銀でも▲3五香の田楽刺しがあります。

どうだろう。確かに納得した気になれるけど、先手さんが抱えてる悩みは「そもそも▲7一角成が候補手として浮かばなかった」っていう点。この指摘は▲7一角成が候補手として浮かんでいる人向けの説明なんじゃないかな。

例えば「次の一手の3択問題」が出されてて、その中に▲7一角成が候補手にあれば適切な説明だと思うけど、実戦は自力で次の一手の3択を導出しなきゃいけないからね。

じゃあこの▲7一角成をどうすれば候補手として出せるようになるのか、導出プロセスを考えてみる。

 

基本の4指標による状況整理から

過去記事のおさらい。まず現局面を評価する。意識する指標は

  1.  手番
  2.  玉の堅さ
  3.  駒効率
  4.  駒の損得

の4指標。手番は先手なので、手番を除き「玉の堅さ」「駒効率」「駒の損得」の3つについて評価してみる。

【玉の堅さ】: 〇先手のほうが堅い

守りの駒の枚数は同じで後手玉は穴熊だが、玉の脇にいた桂が守りから外れている上に、玉と金銀4枚が離れている。対して先手陣は金銀4枚と玉の位置が近く堅陣。

【駒効率】: 〇先手のほうが良い

特筆すべきは飛車の効率差で、後手は飛車を先手陣に成りこむのにまだ手数がかかるのに対し、先手は次の一手で侵入できる。

【駒の損得】: -ほぼ互角

駒の損得は歩を除いて殆どない。

最後に「手番」を握っていることを考えると、基本4指標のうち3指標で先手が上回っていることが解る。つまり優勢。

 

指標ごとに正しい方向性を見出す

優勢な時は、上回っている指標を生かした「候補手の方向性」を考える。ざっくり言えば「方針」ってやつです。

玉の堅さが上回っている場合

「戦いを歓迎し、局面を終盤戦に持っていくよう目指す」のが原則。この考え方が理解できていれば、候補手として終盤戦に突入する手、つまりは「攻め合いの手」に思考が向くようになる。

駒効率が上回っている場合

「駒の効率差をキープする」のが原則。先述の通り、後手の▽3四飛の働きの悪さが駒の効率差において最大の主張点。そのため▽3四飛が働くような手(具体的には▽3五飛▲同角として、先手の好位置の角と働きの悪い飛車を交換される手)を警戒できるようになる。

そうすると「飛車と角を交換される前に、角を動かす」という発想に至る。駒効率において「飛車の働きの差で上回っている」ことを、駒効率という観点から意識付けできてるかがカギ。

 

局面が終盤に近づくにつれ、駒の損得は優先度が下がる

これまで書いた内容について理解していても、▲7一角成は「駒損」するという理由から、結局候補手に上がらない可能性がある。この思考ロックを解除する考え方にも触れておく。

基本の4指標には局面ごとに評価の優先度があって、「終盤では4指標のうち駒損の価値が最も低く、手番を握る手や、相手玉を薄くする手のほうが価値が高い」ことを理解できていれば、駒損でも▲7一角成を候補手から外すことはなくなる。

他にも「相穴熊における角金交換はほぼイーブン(先手はミレニアムだけど4枚で堅く囲いあってるという点では類型)」というセオリーを覚えていると、候補手に挙がってきやすくなる。それこそ、これ知っとけば自分の角の効きが相手の金に当たっている時、いつでも金と刺し違える手を候補手に挙げられる。

以上のような概念を押さえていれば、▲7一角成が候補手として導出できるはず。

 

足りなかった考え方を補完する

候補手に挙げられない場合、今まで書いた概念・原則の理解が充分ではない可能性が高い。指導する側は、どのような考え方を理解していないかに気付き、補完してあげられるのが理想だと考えてる。

指導を受ける側は、どのような考え方が足りなかった(あるいは間違っていた)から候補に挙げられなかったかに気付き、加えて正解手と考え方をセットで紐づけして残せば、着実に候補手出しの精度が上がる。

候補手に挙げれたら、変化を読んで各候補手を比較する段階へ。候補手に挙げれても決断できないことはもちろんある。

けど何となく正解手を見つけようとするより、正解手に辿り着ける可能性は格段に高い。加えて、根拠を持って候補手を出してる分、間違ってても振り返りをしやすいのはメリット。練習量に比例して着実に効果が出る方法だと思ってる。

 

ベストな導出方法は人による

今回の記事は、「指導する側の進行だけの説明は怠けであり、その導出プロセスを省略するのは悪」ってことを言いたいわけじゃない。あくまで指導方法、勉強方法の1案で、候補手のベストな導出方法は人それぞれと思ってる。

例えば子供に理屈で説明しても理解するのは難しい。だったら時間が存分にある分、数をこなして体で覚えさせた方が手っ取り早いし、効率的って考え方のほうが主流なんじゃないかな。

あと大人から始めた人でも、理屈じゃなく体で覚えるほうが合うって人はたくさん居るから、大人だからコレってわけでもない。僕は理屈で勉強してきた側だったから、自然と理由づけしながら候補手を挙げていくようになった。考えるのが好きな人とか、じっくりと丁寧に指す人に向いてると思う。

 

この記事はこのあたりで。