大人からの将棋上達ブログ

成人後に将棋を本格的に始め、24で六段になった将棋指しの

終盤上達のための8つの格言と、定着のための勉強法

終盤戦を制するためには読みの正確さが必要です。ですが、それとは別に終盤を戦うにあたって大まかな指針となる「格言」があります。それら格言を覚えておくことで、終盤戦における急所の一手を導き出すことができる可能性が高まるでしょう。

例えば以下の第1図を例に、有名な格言を1つ紹介します。

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第1図で▲2三銀成▽同玉▲2一飛成と玉を上部に追いかけるのは筋の悪い攻めです。ここでは▲2一飛成▽同玉▲2三銀成と上から攻めていくのがセオリーです。(第2図)

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第2図では次の▲3三桂や▲2二金を見ており、後手玉は受け無しになっています。この手順の指針となってる格言は「玉は下段に落とせ」というものです。将棋には他にも「玉は包むように寄せよ」「終盤は駒の損得より速度」などの格言があり、これらを覚えておくと終盤戦における寄せの指針として役に立つことでしょう。

当記事では、覚えておくだけで終盤力を向上させる格言を8つ紹介します。終盤力に伸び悩んでいる級位者までの方は、格言を覚えて終盤力向上に役立ててください。有段者の方には既知の格言ばかりかもしれませんが、普段何気なく指している終盤の急所の手を、それぞれの格言の考え方と今一度結びつけることで、さらなる終盤力の定着に役立てていただければと思います。

 

格言1:玉は下段に落とせ

まずは記事の冒頭でも紹介した格言について、「玉は下段に落とせ」について、今一度整理をしましょう。

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第3図から駒得を重視して▲5三歩成▽同玉▲5一角成とするのは、玉を上部に逃がしているため筋が良くありません。

玉を下段に落としたほうが寄せやすい理由

ここでは▲5一角成▽同玉▲5三歩成と玉を下段に落として攻めるのがセオリーです。(第4図)

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第4図では後手が▽5二金と受けても▲5四桂と打てば攻めが続く形です。

将棋では玉は下段に落としたほうが寄せやすくなります。なぜなら、飛車と角を除いた駒はすべて、後ろに下がる力よりも前に進む力のほうが強いからです。特に、自分の攻め駒が小駒だけの攻めの場合は、相手玉をどうやって下段に追い込めるかを考えるのが良いでしょう。

 

格言2:玉は包むように寄せよ

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第5図では後手玉をどのように寄せれば良いでしょうか。まず▲2五銀と打つ人は居ないと思います。▲2五銀▽3三玉と進むのは、相手の玉を自ら大海原に逃してしまうことになります。このように王手をしながら相手玉を逃がしてしまう手順のことを"王手は追う手"といい、なるべく避けたい手順です。

▲4二角と打つ手はありそうですが、以下▽1三玉▲3一角成▽2二銀と打たれると、それ以上の寄せがありません。(第6図)

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詰みや受け無しにできない時は、王手をかけないのが基本原則

第5図や第6図がうまくいかなかった理由は、相手に詰みや必死がかからないのに王手をかけて攻めているからです。裏を返せば、"相手に詰みがないときは王手をかけない"ことが、終盤の基本原則と言えるでしょう。

第5図では▲2二角と打つのが正解です。(第7図)

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第7図は次に▲3三銀と▲2五銀という2つの詰みの狙いがあります。両方受けるには▽3三桂しかありませんが、それには▲3五銀▽同歩▲同金という詰み筋が発生しています。つまり、第7図で後手玉は必死なのです。

第7図と同じような考え方で▲2二銀と打つのはどうでしょうか。これには▽4四銀と受ける手があり、失敗します。(第8図)

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持ち駒が銀だと▲2五銀と打って詰んでいましたが、角だと詰みません。相手玉を仕留める駒としては角よりも銀を残したほうが良いケースが多いです。同じようでも注意が必要です。

小駒だけの攻めでは挟撃体制を狙う

"玉は包むように寄せよ"の格言からもう1つ例を紹介します。第9図から5手進むと必死がかかりますが、どう攻めればよいでしょうか。

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正解は▲4一銀▽同玉▲4二銀▽同銀▲2二桂成です。(第10図)

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第10図は次に▲5二金と▲3二金の2つの狙いがあり、後手は同時に受けることができません。つまり必死です。小駒だけの攻める時は、このように挟撃を狙ったほうが寄せが成功しやすいことが多いです。

 

格言3:終盤は駒の損得より速度

将棋において価値の高い駒を入手することは大切です。ですが、終盤が近づけば駒の価値は一変します。一手を争う終盤戦において相手玉の寄せが見えてきた場合、迷わず速度を優先すべきです。

まずは速度を先に考える

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第11図を例に見てみましょう。攻め駒の入手をはかる▲3二とも、悪い攻めではありませんが、ここではもっと早い攻めがあります。

ここでは▲5二と▽同金▲7一銀▽9二玉▲4一飛成とするのが正解です。(第12図)▲5二とで直接後手玉に迫るのが良いです。また途中▽同金ではなく▽7一金であれば▲6二ととさらに寄るのが好手です。

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第12図は、先手に金が入ると▲8二金で後手玉が詰みます。3二の金、5二の金の両方に狙いをつけており、次に確実に取れる形をしているため、後手には受けがありません。

駒損の攻めの頻出形

もう1つ例を見てみます。第13図は後手の矢倉を上下の龍と飛車の力で攻めているところです。

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いま▽3九馬とされて、先手の飛車取りになっています。ですが、ここで飛車を逃げるようでは後手玉への寄せが遅れてしまいます。

ここでは▲2四桂と打ち込むのがスピードのある寄せです。(第14図)

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これに対して▽2八馬と飛車を取るのはもちろん▲3二龍の一手詰めなので、後手は飛車を取ることができません。後手が頑張るなら▽同歩▲同歩▽同銀▲同飛▽2三歩と受ける粘り方です。(第15図)

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第15図までの手順は、矢倉で頻出の粘り方なので覚えておいて損はないでしょう。しかし、第15図の局面でも先手は攻めを緩めません。ここでは▲2三飛成以下後手玉に即詰みがあります。

第15図以下は、▲2三飛成▽同玉▲2四歩▽3三玉▲2三金▽同金▲同歩成▽同玉▲2四歩▽同玉▲2二龍▽2三歩▲2五金までの詰みです。(第16図)

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飛車は盤上で最も強い大切な駒ですが、第15図の局面は寄せの速さが優先されるケースです。終盤においては寄せの速さが駒の価値を上回ることを、この2例にて理解できたのではないでしょうか。

 

格言4:金なし将棋に受け手なし

金なし将棋に受け手なしとは、最も受けに役に立つ金がないと、簡単に受け無しに追い込まれてしまうことがあるという意味の格言です。

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第17図で例を見てみましょう。ここでは絶好の角打ちがあります。ちなみに▲7七角や▲8八角は▽6六歩で遮断されるため不正解です。

正解は▲1一角と、後手がタダで取れるところに打ち込む手です。仮に玉が逃げれば▲5五角成と龍を取ってしまう狙いです。そのため後手は▽同玉としますが、そこで▲2三香成とします。(第18図)

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第18図で後手の持ち駒に金があれば、▽2二金や▽1二金と打って受けきることができますが、持ち駒に金がないため後手玉には受けがありません。

後手の受け駒に金があるか確認しておくのが大切

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もう1つ例を見てみましょう。第19図では後手玉をどう寄せるのがよいでしょうか。

ここでは▲4四桂と打つのが正解です。以下は▽同歩▲4一角成▽同玉▲4三銀として、後手玉を上部から押さえるように攻めていきます。(第20図)

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第20図は▲5二金の狙いですが、角と桂が持ち駒の後手には受けがありません。例えば▽6一角と受けても、▲3二金▽同銀▲4二金で詰んでしまいます。これも後手の持ち駒に金があれば、▽4二金と受けて受かる形です。相手の持ち駒に金があるかどうかを押さえておくのは、終盤の寄せを考える上でとても大切なことです。

 

格言5:玉の早逃げ八手の得あり

強い人どうしの対局を観戦していると、終盤で王手をかけられていないのに、自ら一手をかけて玉をかわしている、そんな終盤戦を見かけることがあるのではないでしょうか。激しい攻め合いの終盤戦の中、先に玉を逃げておくことが好手になることは少なくありません。格言の八手というのはややオーバーな表現ですが、二手、三手の手数を稼げることは実際にあります。

必死をかけられそうな時は早逃げのタイミング

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例を見てみましょう。第21図は終盤の寄せ合いの形です。先手が攻めるなら▲3二とですが、それは詰めろになっていないため、▽3八銀と必死をかけられてしまいます。▽3八銀と打たれた形は有名な必死形であり、▲3六銀と受けても▽3九馬▲1八玉▽2九銀不成で詰まされてしまいます。

ここでは▲1七玉と逃げるのが好手です。(第22図)

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第22図で同じように▽3八銀なら、さらに▲2六玉と逃げるのが好手で、▽2七銀成▲3六玉と進めば先手玉はしばらく安泰になります。相手が必死をかけようとしているその直前は、早逃げの絶好のタイミングです。

終盤は駒損よりも玉の安泰を考える

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早逃げの例をもう1つ見てみましょう。第23図は見てわかる通り、次に▽5九龍から詰まされてしまう形です。持ち駒に歩があれば▲4九歩などで粘れますが、この場合は歩がありません。また▲6八銀や▲6八金左と受けるのも、▽5七歩成が追撃の攻めで、かえって攻めが厳しくなってしまいます。

ここでは▲7九玉▽5九龍▲8八玉として、あっさり逃げてしまうのが好手順です。(第24図)

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金はタダで取られましたが、玉の安全度は第23図より一気に上がったのがわかると思います。もちろん金をタダで取られるのは痛手ですが、何よりも玉の安全度を優先すべきです。第24図のように▲8八玉型を作れば、まだまだ粘れる形です。

 

格言6:端玉には端歩

端玉を攻めるには端歩を突くのが良い攻めです。一見遅いように見えても、それが最も早い攻めになることは多々あります。

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第25図で▲2二金とするのは筋が悪く、▽1三玉▲1五歩▽3三桂打くらいで後手玉は捕まりません。

一見遅いようでも早い端玉への端歩の攻め

ここでは単に▲1五歩と突きたいところです。▲1五歩は次に▲2二金▽1三玉▲1四歩▽2四玉▲2五金までの詰めろです。後手が受けるとしたら▽2二金が考えられますが、それにも構わず▲1四歩と取り込む手があります。(第26図)

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第26図で▽3二金とするのは、▲1三金▽同桂▲同歩成▽2一玉▲3三桂▽同金▲2二金までの詰みがあります。つまり、第25図で▲1五歩と突いた形では、後手玉は必死なのです。

 

格言7:両王手受けにくし

王手の中でも、"両王手" と呼ばれる王手があります。2枚の駒で同時に王手をかけることです。両王手をかけられたら玉を逃げるしか受けがないので、あらゆる王手のなかでも特に厳しい攻めになりやすいのが両王手です。

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第27図は▲6二歩に▽7一金と逃げたところですが、先手はここでどう攻めればよいでしょうか。

▲5三馬と引くのは習いある手筋です。(第28図)

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先手の次の狙いは、▲7一龍▽同玉▲6一歩成という狙いで、▲6一歩成の両王手が実現すれば後手玉はそのまま詰んでしまいます。ですが、第28図では▽5一歩と受けられてしまうと、後が続きません。

解っていても受けにくい両王手

第27図からの正解手順は、先に▲7一龍▽同玉としてから▲5三馬と引く手です。(第29図)

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第29図では▲6一歩成が見え見えですが、解っていても受けにくいのが両王手の狙いです。

▽8二玉は▲7一銀▽同玉▲6一歩成▽8二玉▲7一馬▽9二玉▲8二金までの即詰みです。

またこうしたケースで手筋の受けとされている▽5二金も、▲6一歩成▽同玉▲7一金▽5一玉▲4三桂以下の詰みです。(第30図)

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つまり、第29図の局面では後手に受けがありません。繰り返しになりますが両王手は解っていても受けがないことが多いです。攻める時はもちろんですが、自分もこの両王手にかからないように注意する必要があるでしょう。

 

格言8:邪魔駒は消せ

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第31図ではどう攻めれば良いでしょうか。▲2二銀と打つ手は後手玉の脱出路を防ぐ手筋の攻めのように見えますが、詰めろになっていないため不正解です。また▲2四銀と押さえるのも、▽3二飛と受けられると後一歩届きません。

盤上にないほうが良い駒もある

ここでは▲2二歩成が好手で、自分の邪魔駒を捨てる手筋です。▽同玉に▲2三銀▽1三玉▲3四銀成(第32図)と進み、後手玉に見事に必死がかかりました。(▽1三玉に代えて▽3一玉は▲4三桂不成以下の即詰み)

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味方の駒は時として邪魔駒になっている可能性があります。自分の駒だからといって必ず働いているわけではないということを覚えておくと良いでしょう。実戦ではその見極めが重要になってきます。

 

以上、将棋の終盤戦における格言を8つ見てきました。どれも実戦で頻出する格言だと思うので、覚えておくだけで終盤の上達の助けとなるはずですので、是非覚えておいてください。

 

格言を覚えた後は、定着させるための練習をする

素晴らしい寄せの手順には、当記事で紹介したような格言が絡んでいることが多々あります。自分が見事な寄せを決めた時や、プロやアマ高段者の対局を観戦して美しい寄せを見た時に、どの格言の考え方を指針として寄せの手順を導いたかを考えてみると、終盤力の向上に繋がるのではないかと考えています。

格言を覚えた後は、実戦や観戦を通じて格言を定着させるための練習が必要になってきます。「実戦に勝る修行は無い」との言葉通り、実戦は飛躍的に棋力向上に繋がることがありますが、1局に時間がかかることだけがデメリットです。(観戦も同様)

時間を有効活用できる勉強法として、以下のような終盤力を養成するための棋書を1冊持っておく方法があります。

この「谷川流寄せの法則」には、終盤の寄せの問題数が大量に収録されていますが、それとは別に終盤戦における戦いの考え方・セオリーもかなり膨大に収録されています。例えば以下のような内容です。

  • 詰む形と詰まない形の基本的な法則
  • 囲いの特徴と囲いごとの終盤の法則
  • 終盤戦における格言(※当記事で紹介したような内容)
  • 最終盤における戦いの考え方

終盤は序盤・中盤と比べるとかなり候補手が限られてくるため、考え方をパターン化しやすく、飛躍的に伸ばしやすい分野です。また、将棋は序盤・中盤よりも終盤力の向上が勝ちに直結しやすいという特徴もあります。これまで終盤戦を感覚だけに頼って指してきた人が、上記のような終盤力養成書を用いて終盤を体系立てて理解すれば、終盤の安定感が向上し、勝てるようになるはずです。

終盤の勉強と言えば、詰め将棋や次の一手も有名です。ただ、当記事で紹介したような格言に代表される終盤のセオリーは、それら詰め将棋や次の一手の基盤とも言える考え方です。既に詰め将棋や次の一手を取り組んでいる方は、終盤を体系立てて理解することで、普段の詰め将棋、次の一手の取り組みから更なる成果を得ることができるでしょう。

 

終盤における考え方を理解することは、実戦で指す楽しさを倍増させると思っています。中盤で優位に立てればどうやって一手勝ちを目指すかを考えることが楽しいですし、悪くなってもどうやって逆転しようか考えることが楽しくなります。

また、普段から少しでも終盤の練習をしておくことは、実戦で終盤を迎えた時に大きな自信となるはずです。当記事がみなさんの終盤上達に役立ち、楽しい終盤戦を指すキッカケになれば、幸いです。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!